Webセミナー「高等教育機関における教育DXとデータ利活用の今とこれから」開催レポート
皆様こんにちは。本日の記事は、イベント開催レポートです!
2023年10月18日、アシストマイクロ(現コレオス、以下同)はWebセミナー「高等教育機関における教育DXとデータ利活用の今とこれから」を、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社様と開催いたしました。
この記事では、それぞれの講演概要をまとめます。ぜひご自身のご所属機関の教育DXへの取り組みの振り返りや、今後の方針決定のご参考になさってください。
目次[非表示]
- 1.高等教育DXの政策動向と可能性
- 1.1.高等教育DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
- 1.2.文部科学省の取り組みと成果事例
- 1.3.高等教育DXの可能性
- 2.大阪大学のDX:ひとりひとりに寄り添う「OU人財データプラットフォーム」
- 3.東海大学におけるコロナ禍の遠隔授業の対応と今後の取り組みについて
- 4.日本初「情報系」専門職大学の開学における教育用ICTの活用と課題
- 4.1.東京国際工科専門職大学について
- 4.2.開学に向けたICT選定とコロナ禍のICT活用
- 4.3.学習データ活用と今後の課題
- 5.主催者講演 高等教育機関における教育DXとデータ利活用の今とこれから
- 6.最後に
高等教育DXの政策動向と可能性
文部科学省 高等教育局 高等教育企画課 課長補佐 星 匡哉 氏
高等教育DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
定義は一様ではないものの、大学の業務分類である教育、研究、経営の3分野ごとに進められることが多いとした上で、社会のニーズを基に、デジタル技術を活用し教育モデルと大学の組織そのものやプロセスを変革することである、とおさらいしました。
そして教育DXの目指す姿は、従来の「学校で、教員が、同時に、同一学年の学生に同じ速度で同じ内容を教える」形に縛られず場・人・モノの組み合わせが広がり、学習者主体の教育が実現されること、すなわち「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」であると定義づけました。
文部科学省の取り組みと成果事例
文部科学省は、高等教育DX推進施策の基軸となる「文部科学省におけるデジタル化推進プラン」を令和2(2020)年12月23日に公表しました。
(参考: https://www.mext.go.jp/content/20201223-mxt_kanseisk01-000010143_2.pdf )
このプランに則った具体的な施策例として、「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン(Plus-DX)」、「大学教育のデジタライゼーション・イニシアティブ(Scheme-D)」の2つをご紹介いただきました。
「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン(Plus-DX)」 デジタルを活用した教育の先導的なモデルとなる取り組み(DX推進計画)を募集し、環境整備費用を支援する事業です。令和2(2020)年は252件の申請があり、LMSを用いた個別最適な教育、VR(Virtual Reality)を用いた遠隔での実験や実習などの、54件が選出されました。 (参考: https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/sankangaku/1413155_00003.htm ) |
「大学教育のデジタライゼーション・イニシアティブ(Scheem-D)」 デジタル技術を用いて授業価値を最大化したいアクター(大学教員や企業)が、短時間で簡潔にわかりやすくアイディアを提案する、アイディアに賛同する人ととのマッチングを行う「Pitchイベント」を開催、実際の授業で実践する事業です。 (参考: https://scheemd.mext.go.jp/ ) |
Plus-DXで教育機関ごとに実績や知見を蓄積し、Scheem-Dで実績や知見の横展開を図る狙いです。
これらの取り組みに加え、関連するガイドラインの策定や知見の共有も行なったとして、今年発出された最新のガイドラインを2つご紹介いただきました。
「大学・高専における遠隔授業の実施に関するガイドライン」(3月28日発出) これまでの調査や取り組み事例から導かれる、留意点や知見を整理したものです。学生と教員とのやり取りの機会減少に対するLMS等を使った対処方法、遠隔授業を活用した国内外の他大学との連携等の新たな取り組み例が盛り込まれています。 (参考: https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/000234679.pdf ) |
「大学・高専における生成AIの教学面の取り扱いについて」(7月13日発出) 生成AIの利活用が想定される場面例と留意点を、これまでの各大学の方針や取り組みを踏まえまとめたものです。学生のブレインストーミングや論点の洗い出し、情報収集といった具体的な場面例、生成AIを用いた適切な成果物作成方法の教育、機密情報や個人情報の漏洩リスクなどの留意点が挙げられています。 (参考: https://www.mext.go.jp/content/20230714-mxt_senmon01-000030762_1.pdf ) |
高等教育DXの可能性
平成30(2018)年に中央教育審議会が公表した「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」(通称「グランドデザイン答申」)も踏まえ、星氏は、今後はEdTechなど新たな技術が高等教育の組織、教育方法、IRなどあらゆる面に否応なしに 変革をもたらすと予想します。
さらに18歳人口の減少を背景に国内外の大学間の競争が激化し、学生にどのような価値を与えられるかなど、大学の存在意義がシビアに問われる時代になるともいいます。
現在の課題として、教育データの利活用に向けた環境整備や教育データ規格の標準化、DXを担う教職員・幹部人材・データサイエンティストなどの人材育成を挙げ、最後に、高等教育DXは学修者本位の教育、研究環境の高度化、事務の効率化の実現のために重要なプロセスであり、「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」の実現への寄与を期待できる、と締めくくりました。
大阪大学のDX:ひとりひとりに寄り添う「OU人財データプラットフォーム」
大阪大学 OUDX推進室 副室長 教授 鎗水 徹 氏
OUマスタープラン2027とSLiCS
大阪大学では、教育、研究、経営の3つの基盤を、コロナ新時代の情報基盤整備、多様な人材が輝くグローバル戦略、自由な発想が芽吹く豊かな時間の創出、社会との共創を醸成し活性化させるブランディングといった4つの戦略が横断する中長期計画「OUマスタープラン2027」を策定し、自由な発想と高い知性を育む教育に取り組んでいます。
参考:
「OUマスタープラン2027 ー生きがいを育む社会を創造する大学へー」
https://www.osaka-u.ac.jp/ja/guide/strategy/ou_masterplan2027
OUマスタープランの重点の一つが「Student Life-Cycle Support(SLiCS)」プロジェクトです。学生のライフステージに応じたデータ収集、学生へのフィードバックを行う取り組みで、OUマスタープランのコロナ新時代の情報基盤整備の一つに位置付けられ、鎗水先生はその中の「OUIDプロジェクト」を推進しています。
参考:
「スチューデント・ライフサイクルサポートを実現する取組を開始しました」
https://www.osaka-u.ac.jp/ja/news/topics/2022/04/01001
ご講演内容の詳細は、大阪大学様における事業計画にも関わるため記載できないのですが、OUマスタープランに掲げる将来像をめざすためのプロジェクトやプラットフォームの内容、大学組織におけるDXの進め方のポイントなどの貴重なお話をご紹介いただきました。
東海大学におけるコロナ禍の遠隔授業の対応と今後の取り組みについて
東海大学 学長室 部長(情報担当)教授 岡田 工 氏
新型コロナウイルスの影響と東海大学の対応
東海大学は、北海道、関東地方、熊本に7つのキャンパスを展開し、23学部と62の学科・専攻があり、理系から文系まで多岐にわたる学問領域を提供、学生数は約28,000人にのぼります。
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、2020年5月から迅速に遠隔授業を開始しましたが、当時使用していたLMSがアクセス過多のため停止してしまいました。
やむを得ず、学部ごとに利用可能な曜日や時間を制限する緊急措置を講じましたが、授業時間内にも関わらず自由にシステムが使えないケースが発生し、クレームが生じました。
さらに、当時のLMSは常にシステムを監視し自分たちで対応する体制が不可欠で、運用負荷が高かったといいます。
以上の経緯から、次期LMSの選定が急ピッチで進みました。大規模大学での実績があること、クラウド型で効率的に運用できること、教務システムとの連携が可能であることから、次期LMSには「Open LMS(オープンエルエムエス)」が採用されました。
2020年秋学期からさっそくOpen LMSがフル活用されます。
全学規模のアクセスに耐えるプラットフォームを構築できたことにより、曜日や時間による利用制限を解除、利便性が向上しました。また、Open LMSはMoodleベースであるため、Moodleを採用している他の大学のマニュアルや成功事例を参考にできたのは大きなメリットであったと言います。さらに、クラウド型なので、常時監視・対応の必要がなくなりました。
2021年秋学期には、ワクチン接種が普及した背景も踏まえ、対面授業を50%にまで戻すことを目指し、徐々に増やしていきました。大学内でも遠隔授業を受ける学生が増えたことから、学内のWi-Fi環境を強化しました。
アフターコロナへ 遠隔授業と特色のある教育を導入
2022年春学期からは対面授業が基本となりましたが、コロナ禍に培われた遠隔授業の知見を活かした、以下のような特色のあるカリキュラムが導入されました。
- それぞれの学部の特色ある科目を、全キャンパスの学生が受講可能とする。
- ICTを活かしこれまでより多彩でダイナミックな授業を展開する。
- 日本各地、世界各国からさまざまなゲスト講師を招いたり、他大学の教員、学生との交流を積極的に取り入れたりして、より広い視野を持つ学生を育てる。
実際に岡田先生自身も、海洋実習中の大学の実習船から、低軌道人工衛星を活用しキャンパスの学生に遠隔授業を実施し、高品質な映像で深海魚や海水をリアルタイムに見せるなど、これまでできなかったダイナミックな授業を実践したと言います。
新型コロナウイルスの影響で多くの障害に見舞われたものの、遠隔授業の導入やICT活用の進展により、キャンパスの制約を乗り越える新しい教育方法を確立、学生に多様でダイナミックな学習環境を提供することができるようになった、と振り返りました。
日本初「情報系」専門職大学の開学における教育用ICTの活用と課題
東京国際工科専門職大学 情報工学科 学科長 教授 藤井 竜也 氏
東京国際工科専門職大学について
東京国際工科専門職大学は、2020年4月に開学した、日本国内で初めて、情報分野で文部科学大臣の認可を受けた専門職大学で、1学部2学科と5つのコースを展開し、約800人の学生と、約100名の教職員を擁します。
専門職大学は、40名以下の少人数教育、実務家教員の割合が4割以上と高いこと、600時間以上の企業内実習の実施など、実践的な職業教育に重点が置かれ、産業界との密接な連携により特定の職業のプロフェッショナルになるために必要な知識・理論と実践的なスキルを習得できるのが特徴です。
開学に向けたICT選定とコロナ禍のICT活用
2019年に認可を受けた後、教育ICTシステムの導入方針を策定しました。教員の声からLMSの導入が必須とされ、学生への情報伝達はオンラインを基本とし、クラウドサービスの最大限の活用が定められました。
LMSの選定では、授業資料の提示、課題提示と受取、出欠管理の効率性が重視されました。中でも、実績のあるMoodleベースであること、Moodleを利用する他の教育機関の情報やTipsを簡単に収集できること、Amazon Web Servicesならではの可用性の高さへの期待から、Open LMSが採用されました。
同大学は、社会に出る準備として、成績とは別に授業の出席率も重要視しており、出欠管理は教員の重要なタスクの一つとなっています。全授業でOpen LMSを用い、効率的に出欠管理を行なっているとのことです。
他にも、学生の作文力を強化するためのTurnitin Feedback Studio、日常の連絡手段としてチャットツールを活用しています。
開学4ヶ月前の2019年12月から新型コロナウイルス感染症の流行が始まり、第一回目の入学式は、オンラインで執り行われました。
遠隔授業に向けZoomも採用し、「チャット、Zoom、Open LMSで開学した」と振り返ります。
その後も、コロナ禍の動向に応じて、オンラインと対面とのハイブリッドへの段階的な移行、登校スケジュールの調整を経て、2022年4月には週4日登校を固定化、2023年4月には、対面授業に完全移行しました。
学習データ活用と今後の課題
対面授業の本格化に伴い、授業改善や出席率維持管理のため、学習データ活用の重要性が増しました。
まず出席率は、全学生の出欠状況をLMSから抽出、整理し、各担任に共有、学生の変調の早期発見と落単の防止に繋いでいます。他にも、教員、科目ごとに成績分布を振り返り、偏りがないかを全教員にシェアして確認しています。
期末には学生に授業アンケートを実施し、回答データを収集、教員へのフィードバックに活用しています。
課題として、以上の各種データ抽出・整理が手作業で行われており、教員の負担が大きいことを挙げます。またチャットツールでのコミュニケーションも、締め切りがしばらく先に設定されている課題など、中長期的な事項が新しい情報に流されがちになること、チャットをあまり見ない学生への対応方法など、改善の余地があると指摘します。
最後に、これまでのICT施策について、LMSやチャットなどICTの導入、成績、出席情報など各データのデジタル保存(デジタイゼーション)は、入試を除きほぼクリアでき、教材提示、課題管理、出席管理や学生の状況、授業効果把握におけるICTの活用(デジタライゼーション)は、コロナ禍により結果的に予定より加速したと評価しました。次のフェーズ「デジタルトランスフォーメーション」に向け、授業改善に向けたデータ利活用の本格化、データ抽出や分析の自動化を進めるためのアクションを続ける、と締めくくります。
主催者講演 高等教育機関における教育DXとデータ利活用の今とこれから
アシストマイクロ株式会社 澤田 良二
データ蓄積と今後のデータ利活用を見据えたLMS選びのポイント
文部科学省の施策やコロナ禍の影響により、ここまでの講演のとおり高等教育における教育ICT導入と拡充が進み、蓄積されたデータの活用が課題となっています。
私たちアシストマイクロはICT教育ソリューションのひとつとしてMoodleベースのクラウド型LMS「Open LMS」を提供しており、アマゾン ウェブ サービス ジャパン様は、そのクラウド環境であるAmazon Web Servicesを提供しています。
お客様の課題やニーズにあわせて、両社で相互に連携を取りながら高等教育機関のDX推進をサポートしています。
このように多くの高等教育機関のお客様を支援してきた経験をもとに、弊社が考えるLMS選びのポイントをご紹介します。
他システムとの連携のしやすさ 現在は外部の遠隔会議システムや分析ツール、動画管理プラットフォームなど、複数ツールを併用するのが主流です。LTI規格に準拠したツールやプラグイン連携が可能なツールを選ぶことで、複数システムをシームレスに利用できる快適な環境を構築できます。 データの蓄積と取り出しの自由度 データの取り出しや活用が難しいため、LMSを移行する、というケースもあります。簡単にデータを取り出せるかも重要です。国際標準規格に準じた形でLRS(Learning Record Store)※にデータを蓄積できるものを選ぶのもおすすめです。 授業支援機能の充実 協働学習など、オンライン、対面問わず多様な授業を支援できる機能性も重要です。また、こまめにバージョンアップされ、最新のニーズを汲んだ機能が常に追加されているかも確認するのをお勧めします。 |
※LRS(Learning Record Store)とは:
複数システムの学修履歴データを集積できるデータベースのことです。
国際標準規格に準じた形のデータを集積することで、異なる複数の教育ICTツールのデータでも横断的な分析が可能になります。Open LMSは、国際標準規格である「Caliper(キャリパー)」や「xAPI(Experience API もしくは Tin Can API)」形式に対応した形でデータを取り出せます。
学修データ活用を視野に入れた教育ICT環境のイメージ
収集可能なデータは多岐にわたるため、活用目的を明確化し収集することが重要です。
LMSをはじめ教務システムや遠隔授業システムなど各システム上のデータを、一箇所のLRSに集約することで、詳細な分析や個別最適化された教育などに活用可能になります。
アシストマイクロでは、国際標準規格に準拠した形でLRSにデータを蓄積、活用する仕組みづくりの支援も行っています。
生成AIを活用したLMSの未来
最後に、AI活用についても触れます。
現在AI技術を搭載したLMSも登場しており、例えばカリキュラムを基にLMS上にコースやテスト、ルーブリックを自動作成するなどが可能です。
教育現場でも、教員が学生に自身の文章をAIでブラッシュアップさせるなど、AIの活用が進んでいます。一方、提出物にAIが生成した文章をそのまま使っていないかといった、独自性を検証するツールの需要も高まると考えられます。
最後に
講演の概要は以上です。
最後に、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社様より、大きな変化を迎えている高等教育において、アシストマイクロと緊密に連携をとりながら、高等教育機関様の経営・教育を支援する、とご挨拶をいただき、閉会となりました。
文部科学省やさまざまな大学の取り組み事例から、高等教育機関におけるDX、データ利活用に関係する政策や高等教育機関の現場の取り組みを総括、知見や今後の展望を考える良い機会となりました。
ご参加者様からも、
「内容がタイムリー、かつ幅広い特色の大学での取り組み事例を聞けて興味深かった」
「LMS切り替えを検討中なので、大変参考になった」
などのお声をいただき、ささやかながら参加者様の一助になれたと考えております。
本記事読者の皆様も、共感できる部分や新しい知見を見つけていただければ幸いです。
今後も、高等教育機関の皆様のお役に立てる情報発信や、教育DXを強力に推進するIT製品・サービスの提供に尽力してまいります。
講演者の皆様、ご参加者の皆様、共催いただいたアマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社様、 誠にありがとうございました!
ご講演いただいた東海大学様の導入事例を、以下よりお読みいただけます。詳細な導入経緯や効果も説明しておりますので、ぜひご覧ください。
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