国立大学法人 長崎大学(教育機関)
Case:学習管理システム、アクティブ・ラーニング
導入の背景 |
教育改革の基盤となる新たな教育支援システムの構築を目指す |
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導入の決め手 | 多言語対応、カスタマイズ性、安定したサポートと全世界で数多く採用されている実績を評価、セミナーとデモで即決 |
導入後の効果 |
学生質問への対応や採点業務の効率化に効果 |
江戸時代、日本で唯一の海外との窓口であった長崎。その歴史を引き継ぎ、長崎大学は開かれた大学としてグローバルな人材育成に定評があります。「出島に寄せし新潮に、文化の窓をひらきたる」と校歌にあるように、歴史的にも地理的にもオープンな校風を持っています。長崎大学の始まりは、オランダ軍医ポンペ・ファン・メールデルフォールトによる医学講義が行われた医学伝習所でした。これが1857(安政4)年のことですから、150年以上もの歴史を持つことになります。医学校から始まっているだけに医療分野の研究で知られ、熱帯医学研究所や原爆後障害医療研究所といった専門機関を有しています。
そんな長崎大学は2012年、教育改革の一環として従来の学習管理システム(LMS)とは一線を画する教育支援システムを構築することになり、Blackboard Learnをプラットフォームに採用しました。その経緯や効果について、ICT基盤センターの古賀 掲維准教授に伺いました。
2004年の法人化以降、国立大学には個性の創出や競争力の強化が求められています。長崎大学ではこれをチャンスととらえて「教育改革」を宣言、2012年度(平成24年度)から大胆な変革に取り組んでいます。
その目的は、グローバル化社会の到来を背景に、国際社会でリーダーとなる人材を育成することです。具体的な人物像は、以下のとおりです。
このリーダーを育成するための方針としては、アクティブ・ラーニングの徹底や英語力の向上、ディプロマポリシーに向けたカリキュラム整備と学習方法の改善などが掲げられ、2014年にはその一環として新たな教育モデルを実践する多文化社会学部も新設されました。政治・経済、文化、社会活動等、幅広い分野で活躍できる“長崎大学ブランド”のグローバル人材の育成が推進されています。
「教育改革にICT基盤の充実は不可欠」という学長の主張のもと、新たに構築すべき教育支援システム像が掲げられました。新しい教育支援システムでは学習管理機能はもちろん、コミュニケーション促進やポートフォリオ作成、学習成果の分析・可視化ができる機能等が求められ、それまで同大学で使っていた学習管理システム(LMS)とは一線を画するものでした。
「新システムは『主体的学習促進支援システム(Learning Assessment & Communication System)』略して『LACS(ラックス)』と名付けられ、検討が急ピッチで進められました」と、長崎大学 ICT基盤センター 准教授 古賀掲維 氏は説明します。古賀氏らチームは要件を整理し、LACSの構築方法として、独自開発からオープンソースLMS、パッケージ製品まで、ひとつひとつ検証していくことになりました。 まずは多言語対応。国際社会のリーダー育成が改革の目的であることからもわかるとおり、英語だけでなく多くの言語に対応していることは必須でした。この条件で、ほとんどの国産パッケージが対象外となり、海外製品かオープンソースLMSに絞られました。
次にカスタマイズ性。「当初はスクラッチによる開発も考えたほど、独自性の強い構想でした。カスタマイズ性が高い製品でなければ基盤として採用できませんでした」(古賀氏)。
さらに長期にわたる安定したサポート。オープンソースLMSでは、不具合等への自己対応やシステムのバージョンアップに伴うカスタマイズの再発生などのリスクが懸念されました。また、経営母体に不安のあるベンダーの製品も除外することになりました。これにより、最終的な有力候補となったのがBlackboardだったのです。「Blackboardをそのまま利用するのではなく、これをプラットフォームとしてLACSを構築していけるのではないかという判断ができました」(古賀氏)。
BlackboardのLMS(Blackboard Learn)は、ヨーロッパやアジア圏など、14カ国語に対応。世界75カ国、約9,300以上の高等教育機関・K12(小中高)等で導入され、利用者は1,500万人を超える実績があります。「大学の教育改革を担うシステムですから、全世界で数多く採用されている点は重要なファクターでした」と古賀氏は振り返ります。
古賀氏はBlackboardを早くから知っており、実績にも機能にも不安はありませんでした。「2013年の年明けには最終候補としてBlackboardの話を学内でしていました。具体的な検討を進める中でBlackboardの国内総販売代理店であるアシストマイクロ(現コレオス株式会社、以下同)がセミナーを開いていることを知り、早々に上京して参加しました」と、古賀氏は経緯を語ります。チームのメンバー2名とともに1月開催のセミナーに参加し、詳細な製品情報を再確認します。さらに、同じタイミングでカスタマイズを担当するパートナー会社・SCSK株式会社とも綿密な打ち合わせを行い、Blackboardなら同大学の求めるLACSを実現できると確信します。
2月にはアシストマイクロが長崎に赴いてプレゼンテーションを実施。このプレゼンテーションには理事をはじめ20名が参加し、Blackboardの採用が正式に決定され、そして、4月には古賀氏が自らの授業でBlackboardの試験的な運用を開始しています。「試験運用ではカスタマイズは行わず、標準的な設定で稼働させています。この準備は1週間ほどで行いました」(古賀氏)。
1月にセミナー参加、2月にプレゼンテーションで採用決定、4月から試験運用開始。通常では考えられないほどのスピードで採用から運用まで進みました。
2013年8月、試験運用期間にとりまとめた仕様に基づくカスタマイズを実施し、10月からの後期授業開始に合わせて先行運用を開始します。「先行運用ではまずはeラーニングに興味のある先生方に利用してもらいました」(古賀氏)。先行運用を半年行った後、翌2014年4月からは全学を対象として本格稼働に入り、2014年11月からは新たに構築したポートフォリオ機能も使えるようにしました。
長崎大学のポートフォリオには、学生が自身の学習の履歴を振り返り、学問や研究への取り組みを深めるための省察とあわせて、学生の履修状況や成績、出欠状況も確認できる、いわゆる「学生カルテ」のような役割もあります。
ポートフォリオ機能の構築にあたっては、当初BlackboardのContent Management*を候補に検討しましたが、最終的には複数のBuilding Blocks**も作成し、独自の要件を満たすポートフォリオを実現しています。
「長崎大学ならではのポートフォリオを構築するため、Blackboard上でパーツ(Building Blocks)を組み合わせ、ポートフォリオのテンプレートを作成するような仕組みを開発しました。学部によってはテンプレートの一部を調整して使用したいという要望もあるため、それぞれの部品もある程度カスタマイズできるようにして対応しています。このように、部品化した機能を組み合わせて使えるカスタマイズ性もBlackboardの魅力です」と古賀氏は評価します。ポートフォリオ機能の開発期間は5ヶ月程度でした。「ポートフォリオ機能が実装されたことで、目指しているLACSの大枠ができあがりました」(古賀氏)。
学生の主体的な学びを確立するため、長崎大学が構築を行っている教育支援システム(Education Support System)。柔軟なコミュニケーション機能を備えた学習管理システムであるBlackboard Learnをベースとして、各種ポートフォリオの作成機能だけでなく、分析・可視化(IR: Institutional Research)機能等が実装される予定。
極めてスピーディな採用決定と順調な運用ですが、その理由について、「やはり学長によるリーダーシップが大きいと思います。さらに、充実した講習会の展開、そして全学パソコン必携の3つが要因として考えられます」と、古賀氏は指摘します。
1.学長の強いリーダーシップ
教育改革は学長が打ち出したものであり、このLACSの構築も学長自身による強いリーダーシップで推進され、予算も確保されていました。LACSは全学が対象となる教養教育での利用が義務づけられているだけでなく、理事や教務委員会も学長の考えを受けてLACSの利用を教員に訴えることで、他の分野での利用も促進されています。学生に対しては、1年生前期の必修科目「情報基礎」でLACSの利用方法を説明し、LACSを利用する環境づくりをしています。
2. 充実した講習会の展開
先行運用を前に、2013年9月から教職員を対象にLACSの講習会を開いています。「この9月だけで10回、現在(2015年4月)までに100回以上開催し、参加人数は延べ1000人を超えています」(古賀氏)。教員だけではなく、職員の講習会参加も増えています。学務系の職員や講座に所属する職員にはLACSを利用した教育支援が求められるようになってきています。講習会資料としては「入門編」「実践編」「コース統合編」「グループ学習編」「採点・成績管理」「ポートフォリオ活用編」が用意され、新しいシステムでもスムーズに使えるよう充実したサポートが提供されています。また、教職員からの質問は古賀氏が受け付けており、対面からメール、電話とすべてに対応しています。メールの問い合わせは年間で800通ほどだったといいます(2014年度実績)。「せっかく利用していても、わからない部分があると止まってしまいますので、質問には迅速な対応を心掛けています。可能であれば即刻回答しますし、調査が必要な場合も、遅くとも翌日には何らかの返事をしています」(古賀氏)。
3. 全学パソコン必携
教育改革に伴って、2014年度の新入生からノートパソコンの持参が義務づけられました。LACSを活用したアクティブ・ラーニングを実践するためには学生がパソコンを持っていることが大前提であるためです。これにあわせてキャンパスにおける無線LANの環境も整備しています。「学生はパソコンを必ず持っていますから、たとえば、資料の事前配布や課題提出の受付をLACSで行ったり、授業時間にLACSでグループ学習をしたり、という運用が当たり前のように行えています。1人でも持っていなければこれはできません。教員は遠慮することなくLACSを使った授業ができます。パソコンの必携とLACSの活用、双方による相乗効果が生み出せると考えます」(古賀氏)。
最後にBlackboard導入を検討されている方々へのアドバイスをお伺いしました。「導入および活用を牽引する強いリーダーシップと、きめ細かなで迅速なサポート体制。この双方の力が不可欠だと思います。必要に応じてベクトルを分け、バランス良く展開できるといいのではないでしょうか。本学におけるBlackboardの導入は支援する私たちも驚くほどの急ピッチで進んでいきました。本学の場合、他の学習管理システムからの乗り換えも同時に行いましたので、当初は学内からの反発なども想定していましたが、利用者である教職員に対して徹底したサポートを迅速に行うことで、特に問題なくLACSを浸透させることができたと感じています」(古賀氏)。製品選定から導入、運用、サポートまで担当してきた古賀氏の言葉は、学習管理システム(LMS)等の教育支援システムを検討する教育機関にとって貴重な意見になるでしょう。長崎大学のLACSが今後どのように発展していくのか、注目されます。
*Content Management
Blackboard Learnを構成するオプションモジュールのひとつ。個人、コース、組織といった各教育コンテンツの保管・共有、学生の学習経過と学習成果の蓄積、ポートフォリオ機能を備える。
**Building Blocks
Blackboard Learnプラットフォームの拡張機能。製品にプラグインすることで、必要な機能を追加できる。これにより、プラットフォームのユーザ体験やワークフロー、データ保存機能を独自の方法でカスタマイズし、拡張することが可能。また、Blackboard Learnが公開しているアプリケーションプログラミングインターフェース(API)を使用してBuilding Blocksを作成し、他の技術との統合や製品のカスタマイズを行うこともできる。
“教育改革の一環として、新たな教育支援システムを構築することになりました。
私たちが求める要件をほぼすべて満たすものが、Blackboardだったのです。Blackboardはデファクトスタンダードとして世界各国で採用されています。
日本におけるサポート体制も充実しており、大学の教育支援システムとして安心して運用することができます。”― 国立大学法人長崎大学 ICT基盤センター 准教授 古賀掲維 氏
所在地:
設立:1857年
学生数:学部生7,623名 大学院生1,483 外国人留学生444名
http://www.nagasaki-u.ac.jp/
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